【弁護士解説】仮処分命令
仮処分命令とは、民事保全法で定められた「裁判所が仮にある処分を行うことを命じる」ものです。
民事医保全法には、「その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる」(23条)として、仮処分命令を出せる場合を規定しています。
誹謗中傷に対する発信者情報の開示の場合には、2回この仮処分を行う必要があります。
①掲示板・SNS管理人に対する発信者IIPアドレス開示の仮処分、②インターネットサービスプロバイダに対する情報をお保存しておくことを命じる仮処分、がそうです。
ただし、『現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき』という要件ですが、発信者情報開示の場合には、このおそれがあるとされる場合がほとんどです。
情報は一度削除されてしまえば、修復することは困難です。
大がかりなデータ復旧など行えば回復できることもありますが、次々と情報を上書きしていく場合がほとんどですから、「誰がそのIPアドレスを使っていたか」の情報が削除されてしまってはもはや開示を受けることはできません。
そのため、発信者情報の開示を担保するため、仮処分による手続きが認められています。
もちろん、仮処分はあくまで「仮の処分」です。
債権者が権利を実行することができなくなるおそれを回避する範囲でしか行うことができません。
したがって、掲示板・SNS管理者にはIPアドレスの開示を求められるのに対し、プロバイダには情報の保存しか求めることができません。
IPアドレスがわからなければプロバイダに対する情報保存が求められないこと、プロバイダに対しては情報を削除しないよう命じれば現状の変更を防ぎ情報が削除されなくなるため、権利を実行できなくなる恐れがなくなること、がその理由です。
情報保存の仮処分を行った後には、発信者の住所氏名の開示を求める通常訴訟を起こさなければならないのです。